文の其方

文を吟ってます

専制主義

8月31日の晩。

うやうやしく父が私を呼ぶ。

母の印象は全く残って無いが同席していた記憶がある。

もったいぶった感じで父が私に報酬を渡す。

ありがとうと言って3万円を受け取る。

やっぱ変。
嫌な気分。

父が言う。

初めて自分で稼いだ金を、いつも世話になっている親に1万円でも、渡したらどうだ?

びっくりした…と思う。
耳を疑った…と思う。

でも、不思議じゃなかった。
そういう男だ。
奴は。

断る訳にはいかない。

断れば3倍になって返ってくる。
最悪を回避する為に身を切る。
被害を最小限に留める為に感情を死なす。

1万円を奴に渡した。
奴は満足そうだった。
虐げられてきたモノが更に弱いモノを虐げる時の悦に入った瞬間の卑下たどや顔。

吐き気がする。

お父さん

あのお金

何につかったの?

喫茶 冨士

夏休みにもらった5日間の休みを

どうつかったかは覚えていない。

自宅の1階で母がやっていた喫茶店は

有難い事に、通勤途中のおじさん達がモーニングを食べていってくれるので、その時間帯は回転がはやかった。

おじさん達が、終わったら今度は常連の主婦達の時間。

全く異なる時間が同じ空間で切り替わっては終わり始まる。

それが、終わればランチタイム。
休む暇はない。

12時。

鉄工所の馴染みの人達が代わる代わる席に座る。
店は回り続ける。

毎昼平均1回転半はする。

それが終わって片付けたら、自分達のお昼だ。

食べて後片付けをして少し息を抜く。

15時。

私の労働時間は終わる。

夏の扉

15時まで働くと疲れて遊ぶ気力も無くなる。

というより精神的疲弊が凄かった。

納得のいかない労働を心に嘘をついてやってるのだから、当たり前だ。

全ての自由を奪っていない様に見せ掛けて奪う。

父と母はこれが狙いだったのだ。

私をドアマットに仕立てる事。

其処にこそ自分達の安寧があるかの様に。

夏休み

中1の夏休み。

アルバイトの女の子が来なくなったから、店を手伝わなければならなくなった。

父に打診され、打診という名の強制だった。

私には何時だって選ぶ余地は無かった。

朝、6時台に起きて店を開ける生活は小1から始まって、表を掃いて水を撒くのは私の仕事だった。

朝ごはんは、いつの間にか用意してくれなくなったから、食べるモノを冷蔵庫等から漁って食べる。

7時に店を開けた後、9時まで休憩を貰い15時まで働く。
5日の休みを貰い、夏休み中働いて3万円を貰う契約を父と交わした。

私は、軟式テニス部に所属していた。
休む理由を言うに言えない。

3回、無断で休んだら退部になる。
丁度よかった。
しんどいし、やめたかったし、合ってない気してたし、やりたいって言った手前、自分からやめるって言ったら何言われるか…ゾッとする。

これだと、何も言われない。
大義名分ができた。

でも、やっぱり今思い出しても、

砂を噛む感じの嫌な気分になるんだ。

ヒュー

今思えば…あーだったんだ。

こーだっだんた。

という事がたくさんある。

感じていた事が

起きていた事の全てが裏返しだった。

と言っても言い過ぎじゃない感じ。

書き換えの連続

未だに反復

螺旋階段を登り続ける日々。

同じ事の繰り返しの様な毎日の様に思えたり

それより下回っている様に感じたり

だけども、この頃は同じ色の様に見えても

色相が微妙に違ってたりするのが、わかる。

諦めずに少しずつ上がる。

少し下りたりもしながら

微妙に変わる景色も楽しみながら

鳴いてるよ。

辻褄合わせ

中1になって、会話から筆記中心の勉強になってしまって、正直つまらなかった。

こんなの学校でできるじゃんか…

先生もつまらなかった。

3人目の先生。

やりたいと言った手前やめたいとも言えない。

そうこうしている内に、また月謝が入って無いという事件がおこった。

父が言った。

どうする?

私は言った。

もういい。

土下座すんのはもー嫌だ。

丁度やめたかったし、もーいい。

心の中で唱えた。

やめたかったから、丁度よかったんだ。

土下座

英語をやめなければいけない危機は2度あった。

1度目はいつだったか…高学年の時だったと思う。

先生に、月謝袋を渡してから暫くして袋に月謝が入って無かった事を告げられた。

驚いた。

月謝は渡す前日の晩に母から袋を貰う。
それを、青地に白い地球儀の絵が入ったビニールのスクールバッグにそのまま入れる。

その事を母に告げ、父にも告げた。

父が言った。

さてどうしよう?
入れた筈の月謝が無い。
これから習い続けるのなら、もう1度月謝を払わなくてはいけない。

私は続けたいと言った。

では、そんなに続けたいなら土下座をして頼めと父は言った。

不可思議な気持ちだった。

私はいつもの様に月謝袋を先生に渡した。
ただ、それだけ。

何も悪い事、してないのになぁ。
でも、続けたいなら頼まないといけないんだよなぁ。

もう1度、月謝を払って貰わなきゃいけないから…
でも、土下座は何だか嫌だなぁ。

でも、しないとお前のやる気はそんなモンか?!とか言われるの目に見えてるなぁ…

大好きな英語。
楽しい英語。

こんな事でやめたくなかった。

続けさせて下さい。
お願いします。

私は土下座をした。

頭を額付けた時、何かが鳩尾から抜け出た気持ちになった。

言語化するのが難しいのだけど

虚脱 虚無 喪失

そんな感じの言葉がしっくりくるかなぁ。

更なるダブルバインド

私は英語を続ける事になった。