母の事
母は本当に酷い人だった。
そして哀れな人だった。
ずっと子供のままで
母親の幻影を追い続けた人だった。
愛する事を知らず
愛される事ばかりを
飢えた子どもの様に
追い求めた人だった。
殴られても蹴られても
蔑まれても虐げられても
あの人を恨みきれなかったのは
あの人が小さな女の子のままだったから。
現実を視る事なく
あの人は八つ当たりの対象の私を失って
程なく死んでしまった。
あの人が死んだと聞いた時
悲しくなかった。
悲しくない事が
悲しくて泣いた。
あの人の死は
私に何も残さなかった。
其れが哀しくて泣いた。
残したのはお金だけだった。
お金を愛した人だった。
お金を愛だと思っていた人だった。
それしか知らない人だった。
かなしいひとだった。